ニュースの概要
TBSは、BTSが4月17日と18日の2日間、東京ドームで行ったワールドツアー「ARIRANG」の公演を、11月28日午後8時から有料放送の「TBSチャンネル1」で独占放送すると発表した。2日間の来場者は約11万人とされる。放送は一夜限りの特番にとどまらない。TBSは11月全体を「BTS特集-Precious New Chapter」と名付け、関連番組を28本並べる計画だ。会場で体験した人だけのものだったライブを、半年以上の時間をおいて映像作品として改めて届ける形になる。放送局にとっては、巨大な動員力をもつアーティストの熱量を、有料チャンネルの加入者獲得につなげる狙いも読み取れる。
引用元: BTSの東京ドーム公演、TBSチャンネル1で独占放送へ。11月に関連番組28本を編成(EDAILY)
分析・見解
11万人の動員を半年後の放送でもう一度売る
ライブは本来、その日その場所で終わる商品である。東京ドームの2日間で約11万人が集まった公演も、通常なら思い出として残るだけだ。ところが今回は、映像という別の姿で再び市場に出る。
注目したいのは、公演から約7か月という時間差である。生中継のように初速を狙うのではなく、熱が落ち着いた頃にもう一度話題をつくる設計だ。映像化の窓口が増えると、ライブそのものの価値が下がるという心配もあった。だが実際は逆で、映像が最良の宣伝になり、次の公演への期待を育てる面が大きい。行けた人には記憶の再確認になり、行けなかった人には初めての体験になる。
28本の編成は点から面への切り替え
1本の特番で終わらせず、11月を丸ごと特集月にした点に意味がある。28本という数は、ほぼ毎日1本が流れる計算だ。中身の詳細は今回の情報だけでは分からない。それでも、ライブ映像を頂点に周辺の番組を並べれば、視聴者は何度も同じチャンネルに戻ってくる。
有料チャンネルにとって難しいのは、加入のきっかけを作ることより、加入を続けてもらうことだ。目玉が1本だけなら、見終わった翌月に解約されやすい。特集月という形は、その解約までの期間を延ばすための工夫と読める。
配信全盛の時代に放送局が持つ強み
音楽ライブの映像は、いまや動画配信が主戦場である。BTS自身も、2020年の有料オンラインコンサート「MAP OF THE SOUL ON:E」のように、自前の配信で収益を上げてきた。それでもテレビ局が入り込めるのは、番組編成の力と宣伝力があるからだ。
大規模公演の映像には、複数台のカメラや音の調整など、制作の手間がかかる。放送局は編集と見せ方に慣れている。自社の番組や広告で告知できるため、ファン以外にも届きやすい。日本語の字幕や解説を加えやすいのも、国内の放送局ならではの利点だ。
チケットに届かなかった人こそ最大の市場
東京ドームの11万人は、日本のファン全体から見ればごく一部である。抽選に外れた人や、遠方で行けなかった人は大勢いるはずだ。この見たかったのに見られなかった層は、チケットでは取り込めない需要である。
今後、ライブの二次利用は、チケットやグッズに並ぶ第三の収益源として重みを増すだろう。生の公演、配信、放送、映画館での上映を、時期をずらして順に出す組み合わせが一般的になる可能性が高い。そのとき、権利をどこが握り、どの順番で出すかが勝負になる。ただし独占放送は視聴できる人が加入者に限られる。話題の広がりと収益のバランスをどう取るかが問われる。
ビジネスへの影響
特集月で解約を防ぐ編成は他の有料サービスにも使える
目玉を1本だけ置くより、その前に関連番組を並べて視聴の習慣をつくる方が、契約は続きやすい。今回の放送日は月末に近い28日である。月の前半から見続けた人ほど、最後の目玉まで契約を残しやすい。これは一般的な設計の考え方であり、TBSが公表した狙いではない点に注意したい。
動画配信や地域ケーブルテレビの担当者は、大型コンテンツを買うときに、その前後を何本の番組で支えるかを同時に計画するとよい。月額料金と加入者の増減を週単位で記録しておけば、次の特集の規模を決める材料になる。
放送に合わせた店頭企画は権利確認から始める
ファンの熱が再び高まる放送週は、小売りや飲食店にとって接点をつくる好機だ。たとえば視聴をテーマにした来店企画や、関連する音楽ジャンルの商品特集が考えられる。ただし、映像、写真、名称、ロゴの利用には許可が必要になる。独占放送の素材は、他社が自由に使えるものではない。無断の上映会や関連商品の販売は、トラブルのもとになる。
まず、使いたい素材の範囲を番組の窓口や権利者に確認する。次に、許可が出た範囲だけで企画を組み立てる。この順番を守るだけで、後から企画を差し替える手間を減らせる。
半年の空白を埋める発想を自社の顧客対応に置き換える
ライブ後の半年は、熱が冷めやすい時期だ。この空白に接点を置く考え方は、イベント事業全般に通じる。展示会やセミナーの主催者なら、終了後の数か月に録画の公開や、参加者向けの続編企画を用意するとよい。当日に参加できなかった人は、後から見られる機会を待っている。
今回の事例の教訓は、1回の大きな動員を、その日で終わらせない設計にある。